第１１７話 ３５カ国目 フィンランド 「静かな森と湖の国」  森と湖の国フィンランド。そこはムーミンの世界。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜フィンランド １９９４／６ フィンランド出国までの走行距離 約４５７５５ｋｍ 
欧州・中東走行 １９９４／６／２９〜１９９６／２／１ 走行距離 約３４１３１ｋｍ 
フィンランド走行 １９９４／６／２８〜１９９４／７／１９ 走行距離 約１５４７ｋｍ  |
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２年と３ヶ月の長い北中南米の旅も、始めと終わりはアラスカにマイアミと、いずれもアメリカを経由して幕を閉じた。 「いよいよ欧州走行が始まるのか。」 フランクフルトを経由した飛行機はバルト海上空を通過し、フィンランド上空にやってきていた。機内の窓から下を見下ろすと、海には無数の小島が浮いており、自転車で走れる道は存在しているのだろうかと思ってしまった。とにかく私は無事に森と湖の国、フィンランドに降り立つことが出来た。
フィンランド ３５カ国目のフィンランドを飛行機窓から眺めた。あそこはいったいどんな国なのだろうか。  １９９４年６月２９日、フランクフルトを経由した飛行機がヘルシンキに着陸したのは、午後４時半位だっただろうか。機内から空港のイミグレーションに進むと、 「何日の滞在ですか？」 「２ヶ月以内ですが…」 「２ヶ月分の十分なお金は？」 「はい、２５００ＵＳドルあります。」 そう言うと、チェックせずに入国印をポンと押してくれ、係員はニヤリと微笑むと、 「コンニチハ。」 と日本語で言った。 税関でも何もチェックは無くスーッと通過。インフォメーションでユースホステルの住所録をもらい、レンタカーのカウンターで市街地図をもらい、両替をして空港の外に出る。自転車は今回ハンドルを曲げただけでそのまま運んでもらっていた。そのため入国してからの組み立て作業もなしだった。 近代的な空港、澄みきった青い空、美しい緑…こんな清々しい気持ちになったのは何ヶ月振りだろうか。人々のざわめきも、蒸し暑い気候も、ここフィンランドにはない。爽快この上ない。胸に思いっきり空気を吸い込み、 「これからヨーロッパ走行が始まる…」 思い新たにペダルを踏み出した。
フィンランド 空港前で思いっきり空気を吸う。清々しい空気がそこにあった。  ヘルシンキ市内へ向けて標識頼りに走るが、嬉しいのはサイクリングロードの存在。道路とは別に２ｍくらいの幅でちゃんとアスファルトが敷かれているのである。欧州のサイクリング事情はどこもこうなのだろうか？と胸弾ませた。周囲はもちろん金髪の白人が殆ど。しかし私の頭の中は以前の中南米の雰囲気が抜け切っていないようで、タイムスリップしたような妙な感覚でヘルシンキ目指し走っていた。 「これからはしばらく先進諸国を駆け抜けて行くんだな。」 時間をスキップしてしまったような、何か妙な感覚はカルチャーショックというものかもしれない。気持ちの良い自転車歩行者道を首都のヘルシンキに向けて走り、ようやく市街地らしい所にまで辿り着いた。エッソのスタンドに入り、大きめの市街地図を購入しようとすると、 「いらっしゃい。」 と英語で聞いてくれた。 「あ、あのユースホステルを探しているんですが…。」 と言うと、 「オリンピックスタジアムの中だよ。」 と地図上で丁寧に教えてくれた。きれいすぎる位の町並みの中を走り、やっとユースホステルにたどり着いた。夜も８時を回っていたが、外はかなり明るい。時間を長々使えそうな気がして、とても嬉しくなってしまう。
フィンランド ヘルシンキのユースホステル前。  ユースでは九州男児の河崎さんと出会い、旅の話しに花が咲いた。彼は中国、ロシアと経由して、途中パスポートも紛失したりとトラブル続きだと言った。フィンランドに来て先進国の雰囲気にやっと落ち着いたところだと話した。私も同じような心境。中南米から北欧・・・それはギャップも大きかった気がする。それにしても彼のロシア、中国の電車とバスの旅も、なかなかエキサイティングした様子だった。 ヘルシンキでは６月２９日から７月５日まで滞在し、雑記のまとめに写真の整理をして過ごした。それにブラジルで行方不明となったテントのポール探しも行った。私のテントに合うものを探すのに、ヘルシンキ中のアウトドアショップを走り回ってようやくポールを手に入れることができた。 ヘルシンキでは雑用だけでなく、市内観光もした。ヘルシンキの街並みは本当に優雅で上品で素晴らしい・・・素敵すぎる町並みがそこにあった。
フィンランド ヘルシンキの街中を観光して歩いた。 
フィンランド 爽やかな空の下で気持ちの良い青空マーケット。 
フィンランド 老婆と見詰め合う小鳥。 
フィンランド 市内の公園。立派な歩行者用と、サイクリング道路があった。 
フィンランド 緑いっぱいのヘルシンキの公園で。  １９９４年７月６日、ユースホステルをあとに、いよいよフィンランド走行を開始。欧州サイクリングの幕開けだ。完璧な設備の整ったヘルシンキのユースホステルでは、南米の旅の疲れがだいぶとれた気がした。トイレも部屋も清潔で、お湯も出ればトイレットペーパーもちゃんとある。ヘルシンキに入ってから中南米でのことを色々思い出すと、 「あそこはあーだった、あれはあーだった。」 と時代をさかのぼった気になってしまう。 ユースホステルを出発してボスニア湾沿いに北上、ノルウェーのノールカップを目指して走って行く事になる。朝のヘルシンキを走って行くが、通勤ラッシュはあるのだろうか？と思わせる程、町中の人や車の流れは落ち着いている。夏休みなのかもしれない。 次に目指す町タンペレーの標識をやっと見つけ、その標識を頼りにして進んだ。しばらく走って右に曲がったところで、「自転車通行禁止」のマークがお目見え。 「これは弱ったなあ…。」 と思ったが、ふと左を見ると自転車専用道がある。早速走り始めたが、ものの５ｋｍも走リ続けていると終わってしまった。まさか高速道を走る訳にもいかないしと、近くのスタンドに入って聞いてみた。 「あのータンペレーに行きたいんですが…。」 そう英語で尋ねると、若い店員は地図を持ち出し、 「高速道がこう走っていて自転車や歩行者道はこんな風にある…行き方は知らないが、高速道沿いにあるから着けますよ。」 と親切に教えてくれた。結局森の中をあっちこっち走る自転車道を、高速道を走る車の音を頼りに走り始めた。苦労するかと思ったがそうでもなく、高速道の横を走りながら北へ北へと進んで行った。
フィンランド 高速道路の近辺をジグザグに進んで行く。  しばらく走ると高速道の横に一般道が出現したので、今度はその道を走る。青い空に杉林。黄色い花々に緑の畑。 「ここが北欧か…。」 ほっとした気分で景色を眺めながら走った。夏のパタゴニアを走って夏の北欧かあ…。自転車野郎にはかなり贅沢かもしれない。
フィンランド ７月。まるで気持ちの良い春のようだった。 
フィンランド 花の黄色は目に眩しかった。 
フィンランド おとぎ話の世界に紛れ込んでしまったみたいだ。 午後、食料を買うべくスーパーに入った。すると、野菜を袋に入れるのも、グラムで計って値札を付けるのも買い物客自身がやっている。日本でそんな事をしたら、皆値段を安く付けそうなものだが、フィンランドではその辺の心配はないのだろうか。 スタンドに行けばほとんどの所はガラーンとしてアメリカでも見たセルフサービスが主流。だから店員は一人で済んでしまう。なんと合理的。すごく便利な生活があるように思えた。雇用は減っても合理的だ。ヨーロッパ全土がこうだとしたら少し怖い気もする。 快適な道のりを１００ｋｍ程走り、ハンメリンナの町の手前の湖畔沿いにテントを張った。地元の人に、 「今晩あの湖畔近くの空き地にテントを張りたいんですが…。」 と聞いたが、 「公共の土地だからなんとも言えないが、大丈夫だろう。でも、もし何かあったら、その時の責任は自分自身でとらなきゃならないぞ。」 何とヨーロッパ人らしい返答だろう。土地も変われば人も頭の中味も変わってしまうのか。テントを張り、自炊をしてヨーロッパ初走行の幕はあけた。
フィンランド 入国して初めての野宿ポイント。  空き地から歩いてすぐのところに湖畔があった。そこから見たハメリンナの眺めもなかなか美しかったが、その右手でたわむれていた鳥たちの泣き声もまたすごかった。 テントをたたんで自転車道を走り始める。湖畔沿いでは洗濯をしている人がいっぱい。下着や衣類等ではなく何か毛布のようなものらしかったが、湖の水で洗濯とは…私の地元の諏訪湖を思い出すと羨ましく思えた。
フィンランド 洗濯する人々。水は相当きれいなのかもしれない。  ハメリンナの町中をスーッと走り去ったが、何でこんなにも？と思うほど静かで落ち着いた雰囲気。何がどうなってしまったのかと思うほど。見れば老人が多いような気がする。のんびりで静かなのはいいが、中南米で見たやかましい活気溢れる風景もなく、少し淋しい気がしないでもなかった。何か物足りない思いでハメリンナの町を後にした。 町から外にでるのがまた厄介。案内表示通りに目的地を目指して行くと、必ず高速道に交わってしまう。ようするに高速道に入らないよう自転車道を探しながら走る訳だが、平行に走ってもいないのでこれが本当に厄介。右へ行ったり左へ行ったり…。 「こっちだな、よし」 と行ったら行き止まり。 「あれ？」 近くにいた人に聞いてやっと行き方を把握。地元の人と交わす挨拶も少し覚えた。 「こんにちは」は「ヘイ」。「ありがとう」は「キートス」。やっと覚えたフィンランド語２つである。 青空の下の森林浴を満喫しながら、途中ラーメンを作って昼食。その後も走り続け、タンペレーに近づくと一般道は知らぬうちに高速道のようになってしまい慌てて出た。地図を見ていると高速バスから降りてきたおじさんが近づいてきて、 「どこへ行くんだね？」 「タンペレーへ。」 そう言うと、 「あの信号を右へ曲がったら後はずっとまっすぐだよ。」 そう教えてくれた。やれやれ。しばらく走っていると、 「ヘイ。」 と、後ろから声がかかった。もう３０歳後半に見えたその彼の名はアッテ氏。聞いた事もない響きがいかにもフィンランド人の名前らしかった。 「どこから来たんだね？今までどこを旅してきたの？」 彼は興味深く聞いてきた。アッテ氏はやはり自転車のツーリングが好きなようである。 「デンマークはあそこがおすすめ。」 とか、 「イギリスへは私もツーリングに行きたいがね・・・。」 と色々話す。 「カメラを持っているかね？私が撮ってあげよう。」 そう言うので、私はカメラを渡した。すると、パシパシと撮り出した。 「私の写真はどうでもいいんですよ。」 と言うと、アッテ氏は、 「普段は撮れないだろうから。」 との心配りだった。
フィンランド アッテ氏の撮ってくれた私の写真。そう言えばこういう写真は少ないかも？  アッテ氏はその後、 「今日、私は休みだから、これから君が通り過ぎる町、タンペレーを少し案内しよう。差し支えなければだがね。」 私は大喜びでオッケーした。走りながら日本のこと、フィンランド語のことを話した。ノルウェー、スウェーデン等の言語と違って、フィンランド語はゲルマン語から来ているのではなく、同類っぽいと言えばエストニア語がそれらしいと言う。フィンランド人にとって英語は少し勉強しにくいと言った。 タンペレーはフィンランドで３番目に大きな都市。この街も例外でなく、美しく静かで落ち着いた雰囲気の街。濃すぎる位の緑の芝生の上で、男女が水着で日光浴している姿が目に入った。 「今はこうだけど冬はマイナス３０度の世界さ。」 アッテ氏はそう言ったが、目の前にある穏やかな緑の光景からは、とてもじゃないが想像がつかない。 町のセントラルにその芝生があったが、ベンチでパンをちぎってハトに餌をやっているのは老人。ベンチにじっと座ってアイスクリームを口にしていたのも老婆…なんだか静かな国のイメージは一段と強くなった。 「ここが、建ってまだ４年のコンサートホールだ。」 と近代的な建物の中に案内してくれ、その後、 「ビール飲むかね？」 と言うので、 「それじゃあ。」 と頂く事にした。白いテーブルとイスのある屋外でビールを口にしたが、周りの雰囲気はもの静か…。極端に笑うでもなく騒ぐでもなし。アッテ氏も普通の声より小声で私に話し掛けている。私もつられて小声で話した。
フィンランド 静かな野外のベンチで私はアッテ氏にビールを頂いてしまった。小声で乾杯？  フィンランドは静寂で美しい国と感じたが、ふと思い返してみれば、この国に入ってからまだ一度もクラクションを鳴らされてないような気がする。かつての国ではあり得ないことだ。 アッテ氏の後を自転車でついて行き、タンペレーを抜けて行く。一人で市内入りして、一人で街から出るとなれば、それは時間がかかっただろう。アッテ氏の親切のおかげで町中の案内からビールまで…嬉しくなってしまう。 「フィンランド人はとても心を閉じていて、そんなに開けっぴろげな性格じゃないからとっつきにくいかもしれない。フィンランド人がどういう人間なのか知るのも難しいかもしれないな。」 アッテ氏はそう言った。そう言われてみればパタゴニアでトレッキングを一緒したフランスのマルティンもフィンランド人は変わっていると言っていたっけか。 私はアッテ氏と硬い握手をして別れた。彼はフィンランド人だったと思うが、他の人とはどこか違った感じで私に接してくれた。それほど他の人は静かだった。
フィンランド タンペレーの街を色々と案内をしてくれたアッテ氏。  晩は９時まで走り（それでもまだ日は沈まない）、湖沼沿いにテントを張り、自炊して床についた。テントを張った近くには涌き水の小さな池があり、少年たちが自転車でやってきてはおいしそうに口に運んでいた。
フィンランド 菜の花を見ながらの走行は続いた。 
フィンランド 緑も本当に多い。 
フィンランド 湖畔で野宿をすると、湧き水を飲みに子供たちがすぐ近くにやってきた。 
フィンランド 湖を望む。こんな風景がそこにある。  明るくなったので目が覚めた。 「あれ？もう７時くらいかな？」 日の昇り具合と、小鳥のさえずりを耳にしてそう思った。しかし時計を見ると、まだ早朝４時。体内時計が変に働いたのか、白夜の世界に戸惑っているのかもしれない。朝の７時にもなるとお日様は以外と高くに位置し、テント内もかなりポカポカと暖かくなる。
フィンランド 早朝の湖は神秘の眺め。波の立たぬ湖面の美しさは恐ろしい程。  朝８時。いつものように走行開始。真っ青な空と澄み切った空気、目に強すぎる位の木々の緑。この上なく快適な走りとなった。時々道沿いに姿を現す湖沼。ひっそりとしたその風景に、思わずペダルを止めて眺め入ってしまった。
フィンランド 時々姿を現す湖沼。ひっそりとしたその風景に思わずペダルを止めてしまう。  イメージしていた北欧がそこには存在していた。クラクションを鳴らされることもなければ、車は皆極端に距離をとって避けて行ってくれるので、安心して走行ができる。村から村の間はあったりなかったりするサイクリング道も、町や村の近くになると必ずある。それも幅２ｍ程の道。もちろん、ちゃんとアスファルトも敷かれている。 途中のスーパーでトマトや牛乳等を購入。慣れない「キートス」（ありがとう）を使うと、向こうもにこやかに「キートス」と返してくれた。０、１、２、３（ノツラ、ユクシ、カクシ）…全くラテンとは異なるフィンランド語の数字。出国するまでに果たしてどのくらい覚えられることやら。 レストランは高くてさすがに手が出ないので、毎日、朝昼夜と自炊メインで生活していた。しかし宿泊地には困らず、その辺の道を奥に入った静かな道路脇でキャンプが出来る。小鳥のさえずりを耳に、眺めの良い湖畔などで自炊できるわけで、設備の整ったユースよりもかえってこちらの方が気持ちがいい。 森林浴の続くフィンランド走行。人々は水着で家の前で日光浴。気温２７℃くらいだろうか。割に日中気温は高くなる。日が長いこともあって結局午後８時まで走り、道沿いから森の中に入った草地にテントを張った。近くの小さな湖では子供たちが水遊びをする、のどかな光景があった。
フィンランド 美しい湖では子供たちも泳ぎまわっていた。 
フィンランド 懲りずにこの日も野宿。  今日で３日続けてテント。夜は暗くなることもなければ鳥の声が止むこともない。こんな不思議なことがあるのだろうか。毎日湖と森の中を走れて本当に心が和んだ。 林の中で張ったテントをたたみ、バーサの町のユースホステル目指し出発。 サイクリング専用の自転車に乗った老人に出会い、子供にも出会い、そしてドロップハンドルの付いた女性専用の自転車に乗る主婦ともすれ違った。一般道とは別に設けられた自転車と歩行者専用の道が、なんとも羨ましく見えた。 バーサに着いたのは午後４時頃。市内のインフォメーションでユースホステルの場所を聞き、ついでに町の地図も頂く。フィンランド人と毎日接して感じたことは、いつも静かで落ち着いているという事。バカをやっている人も酔っ払いも見なければ、人々は静かにまじめに？暮らしている。別に活気がないわけでもないのだろうが、若者がおとなしげにベンチに座っているのを見て何だか淋しくなってしまう。ヨーロッパのムードはすべてこうなのだろうか？そんな疑問を抱いた。 ユースホステルは１６ドル。ベッド２つにキッチン、シャワー付き。きれい過ぎてア然としてしまう。ホテルのようなユースで、情報を誰かと交換…なんて雰囲気は殆どなかった。夜の１０時。まだまだ明るいがカーテンを閉じて床についた。
フィンランド ユースの中はまるでホテルのような快適さ。  今日も目指すは北。ホテルのようなユースホステルを出て、バーサの町を後にした。市内を出てすぐのエッソのスタンドに寄り、大きめの地図を買う。両親が送ってくれた「The olympic winter game Nagano」の文字の書かれた私の帽子を見た店員は、 「それもう一つ持っていないか？」 と聞いてきた。 「ええ、もう一つだけありますよ。」 「良かったら売ってくれないか？」 若いのか、３０代位なのか年齢はどのくらいか分からないが、本当に帽子を欲しそうにしていたので、 「２つ持っていてもしょうがないからあげますよ。」 と言って渡すと、５００ｃｃのコカコーラを１本だけ？くれた。
フィンランド エッソスタンドに寄ると、店員は長野オリンピックの帽子をくれと言った。タダで上げたら５００ｃｃのコーラをくれた。  海岸線を見ながらボスニア湾沿いを北上と思っていた。しかし海岸線を見たのは１、２回か。私が走った道のほとんだは、高い針葉樹林に囲まれた杉林の中だった。 この日は日曜日とあって自転車に乗ってサイクリングを楽しむ親子連れ、老夫婦等の姿などが目立った。午後２時、いつものようにその辺のわき道から林に入ってラーメン自炊。そしてコッコラの町を目指し走り始める。
フィンランド 読めないフィンランド語の標識を頼りに北上。  道沿いにあるキヨスクに寄ってジュースを１本買う事にした。フィンランド語が話せないので、 「・・・ジュースが欲しい・・」 ジェスチャーで必死に伝えると、 「セブンマルカよ。」 と英語で答えてくれた。入る店によって全く英語を話さないおばさんもいれば、ペラペラのお姉さんもいる。話せるだろうと思いおじさんに話しかけた時などは、 「ちょっと待っとくれよ。」 と言って息子を呼んできたりもする。ゲルマンにもラテンにも属さないフィンランド語は難しそうだ。 ジャコブスタッドピエタルサーリの町中を走り抜けるが、どこもかしこも休み。人々はバケーションを取っているのか、町中で見る人の数はいたって少ない。フィンランドに入ってからは、街の光景を見ては寂しく感じてしょうがない。 主要道から海岸に近い島々の間を行く道にルートを変え、夕方一件の商店に寄った。田舎のスタンドを兼ねたキオスクではあったが、店内は女性１名、３メートル四方の小さなショップで、食料品からちょっとした雑貨類などもそのスペースに収まっている。 「ヌマ、マイト」（フィンランド語でエッグとミルクの意） と言ったら、 「エッグ・アンド・ミルク？」 と英語で聞きなおされ、ほっとして、 「イエス。」 若い男女は平均して英語を話せるようだ。スタンド監視用のミニモニターもあれば、カードも使える近代的なレジの設備などもあり、いかにもヨーロッパらしい。またしばらく走って、もう一度一件のスタンドを兼ねた商店に肉を買おうと寄る。豚肉を買ってレジに行くと 「どっから来たの？日本？旅行してるのね。良かったらこのパンフレットでも持っていったら？あげるわよ。」 と付近の地図を一枚くれた。店内に貼ってあった地図、フィンランドのバーサ近辺の西部の辺りを指で示し、 「この辺はスウェーデン語なのよ。知ってた？」 と教えてくれたりもした。夕方８時頃まで走り、道沿いからちょっと下へ降りた湖沿いにテントを張って自炊をした。走りやすく景色も美しいが、人々の様子は本当に静か。
フィンランド 殆どの日に湖沿いにテントを張って過ごした。  １０時、いつも青空のフィンランドが今日は珍しく曇り。暑くないので助かるが、景色は暗い分だけ冴えない。ココラを通過し、８号線と合流。ひたすら森林の中を北上した。フィンランドに入ってから毎日自炊が続いていたので、今日はハンバーガーショップに寄ってみることにした。２４〜２５歳くらいの青年が経営していた。 「ハンバーガーひとつ。」 「何か他には？」 「コカコーラもお願いします。」 必要な注文のやり取り以外の会話はなく、 「サンキュー。」 と言って終わった。フィンランドに入ってから中南米のようなコミュニケーションは本当に減った。言葉の問題もあるから、一概に冷たい人々だ、などとは決して言ってはいけないのだが・・・。 走行中に多く目にするのはキャンピングカー。普通の乗用車に８０センチくらいの長いサイドミラーを取り付け、後方にはキャンピング車を引っ張っている。長い休暇も取れて、キャンプ場施設も整っていないと、こうしたキャンピングカーも普及しないのだろうと思った。 ゆったりとした走りの出来るサイクリングロードを夜７時まで走った。この日も空き地にテントを張って横になった。
フィンランド 車専用の道は横にある。私は静かな道を我が物顔で走れた。 
フィンランド こんなにもゆったりとした歩行者、自転車専用の道が設けられている。 
フィンランド 今日も野宿。  朝食を済ませていつものように走り出した。走行を開始すると、いつものように森林とのにらめっこが始まった。 小さな村々を過ぎ、人々と会話をすることもなく、ひたすら走り続けてオウルの街を通過し、ハウキプダスの町に着いた。１２０ｋｍ走ったこの日の午後７時頃、町のユースホステルに泊まる事に決めた。軽食屋の主人にユースホステルの位置を聞くと、５ｋｍ程戻って、右に曲がって更に６ｋｍだと言う。結局１１ｋｍ程も戻って、それはひっそりとした静かなユースホステルに辿り着いた。
フィンランド ハウキプダスの静かなユースホステルで一夜を過ごした。  約１０００円程の安いユースに泊り客は私一人。真夏だと言うのに。ユースはおしゃれな建物で、落ち着いた雰囲気だった。中にはサウナもあり、こんなきれいな所ならもっと長居したいなあ、と思ってしまった。静かで快適なのは良かった。しかし旅の話をする相手が誰もいないと言うのは淋しい。一人キッチンでスパゲティと野菜炒めを作ってモクモクと食べ、ベッドに潜り込んだ。
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